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『奥さん何度も言いますが嘘はいりませんよ。』
嘘なんかついていない。でも私の言葉は大人には通じないだろう。
警察は溜め息を吐き出し、私の目を覗いてくる。
『失礼かもしれませんが旦那さんは?』
私は彼を思い出し、胸が痛くなった。あの日から、私の前からいなくなってしまったあの人。一年はたとうとしているだろうか。
『もう調べているのでしょう?…あの人は死にました。海で溺れた娘を助ける為に…あの日、娘だけが助かったんです。夫は暴れる娘をボートに…』
涙が出てきた。声が出ない。あの人が命をかけて助けた娘に私は刺されたのだ。…愛していたのに。あの人を愛していたのに…
『旦那さんの遺体は?』
『?…あ…上がりませんでした。いくら捜索しても出てこなかったんです。』
何が聞きたいのだ?警察の意図が分からない。
『生きている可能性は?』
『は?生きている?』
私は思わず声を荒げてしまう。生きている訳が無い。生きていれば真っ先に私の元に帰ってくるはずだ。
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