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自分は誰だったんだろう?
少女の家の二階に泊めさせてもらっている少年は、ベッドに横たわりながら天を仰ぐ。
光の街に来る以前の記憶だけが、すっぽりと綺麗に抜け落ちている。自分の名前すらも。
漠然とした不安が常にある。
自分は本当に、今まで生きていたのだろうか?
自分という人間は、本当に存在していたのだろうか?
「分からない……」
答えのない問題を解き明かす方法はない。ただ羅列されている文字からは、何の意味も汲み取る事が出来ない。
彼の存在に関する問題は、現時点ではまさに解答のない問いだ。切れ端の見つからない糸を手繰る事は出来ないのと同じで、断片すら残っていない記憶を引き戻す事は不可能なのである。
他人から断片を譲り受けるか、真っ暗だった記憶世界に明りが灯るか、そういった自分の意思とは関係のない場所が変わらなければ、根本的な解決には至らない。
「……今は、この街の事を考えよう。魔法は覚えてたみたいだし、そこから何かが分かるかもしれない」
少年の小さな決意は、誰にも聞かれる事なく闇に溶ける。
それから数刻後、彼の部屋からは安らかな寝息が響き出した。
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