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「この街、誰が作ったのかしら?」
翌朝、一階で朝食を摂りながら少女は問う。
「この街をどう思ってるのかしら。素晴らしい街だ、とか思ってるなら、一発殴ってやりたいわ」
「……明日の君を、遥か雲の彼方で待つ」
いとも容易く暴言を吐く少女の言葉を聞いていたのかは定かでないが、少年が呼応するように口を開いた。
彼が光の街へ来た初日に会った、謎の男が口にした言葉だ。ずっと言葉の意味を考えていたのだが、結局答えには至らなかった言葉。
「ふーん、珍しい言葉知ってるわね。レクリースの英雄の言葉をもじったのかしら」
「意味、分かる?」
独白程度に呟いたつもりだったのだが、予想に反して応えてきた少女へ、少年は質問で返した。
すぐに頷いた彼女は、頭の中から記憶の糸を手繰り寄せ始め、やがてゆっくりと口を開く。
「昔、レクリースっていう国でかなり大規模な内戦があったのよ。悪政を敷いていたレクリース王国軍と、市民に慕われてたスレイヴ将軍が率いたレジスタンスの戦い」
少女が紡ぐ言葉に、少年はただ頷き続ける。
「スレイヴ将軍の同僚に、レードリーっていう人がいたの。レクリースの王子で、スレイヴ将軍の親友なんだけど、その人はレジスタンスに荷担するのよ。二人は武芸に秀でてたから、王国軍に幾つもの黒星を積み上げさせたんだけど……」
ここから、少女の声のトーンは下がった。彼女が明らかにレジスタンス側の思想を支持している証拠だ。
「レクリース王は、レードリーの恋人を投獄して、彼を脅したのよ。『恋人を殺されたくなければ、大人しく戦闘を放棄しろ』、って。レードリーはそれに従ったわ。その事をスレイヴ将軍に告げた時、彼が口にした言葉が――」
少年は息を飲む。少女の目には、何とも言えない輝きが満ち始めていた。
「明日の君を、霧の向こうで待つ」
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