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「ここ……は?」
燦々と光が降り注ぐ街。その片隅で、一人の少年が俯せの状態から身体を起こしていた。
十代半ば、だろうか。少年と青年の狭間を歩んでいるような外見である。子供ではないが、大人にもなりきれていない、というのが的を射た表現だろう。
身体を起こした彼は、せわしなく首を動かし、辺りの状況を確認しようとしていた。だが、周囲の風景に見覚えはない。少年は肩を落とす。
落ち込みながらも立ち上がった少年は、今度は行動を起こそうと思い立ったらしく、初見の土地を練り歩き始めた。
他のものに喩える事が出来ないほど明るい光に包まれながら、彼は特に何も見当たらない場所を闊歩する。
冒険ごっこのような感覚なのだろう、少年は非常に楽しそうだ。彼くらいの年頃なら、未知の世界に興味を示してもおかしくはない。
「なんだろう、これ」
少年は、歩いているうちに蹴ってしまった木片を拾い上げ、眼前に持って来て目を凝らした。
綺麗な長方形を象った木片は、それなりに長く放置されていたらしい。湿気を帯びているそれには、強く握ったら崩れてしまいそうな危うさがある。
少年は、その木片を裏返してみた。その面には、雨風の影響で掠れたと思われる黒い文字が幾つか刻まれている。どうやら、この木片は昔看板だったようだ。
彼は近くに落ちていた木の枝を拾うと、看板の文字を土の上に丁寧に写し取ってゆく。
この木片は、字が書かれていたと思しき場所がへこんでいた。恐らく、目が不自由な者に配慮したのだろう。
ほとんど平らになったくぼみを指先でなぞり、地面に字を写し終えた少年は、自分が描いた文字に向けて首を傾げる。
「『光の街』? どこだろう」
字を写すのに夢中になっていた少年が視線を上げると――。
そこには、眩い光を受けて輝く、美しい町並みがあった。
『光の街』。その言葉以外に、この街を表現できる言葉はなさそうだ。
ただ、『光の街』という名称は、何も外見だけから付けられたものではない。
少年もすぐに分かるだろう。
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