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どこを見ても同じだった。住人たちの顔は、一人残らず笑顔で満ちている。
しかし、その中で心からの笑顔を浮かべている者を、少年は見つける事が出来なかった。
やはり、何かが違う。澱みのない笑顔を見る事は叶わない。何故、この街の住人たちは本当の感情を押し殺すのだろう?
「ねえ、やめなよ」
後ろから聞こえる子供の声に、少年はゆっくりと振り返った。
彼の視線の先に映ったのは、やけに騒がしい人だかり。その中心には、木製のやぐらがそびえ立っており、上には若い男が立っていた。
「ごめんね、やめないよ。僕は、もういいんだ」
何の話だろう。少年は首を傾げる。しかし、その答えはすぐに出た。
「じゃあね、バイバイ」
男は野次馬たちに笑顔を見せる。そして――彼は、やぐらから飛び降りた。
やぐらは、街の全体を見渡せるように造られているため、非常に高い。そこから一思いに飛び降りた男は、鈍い音とともに地上へ墜落した。
彼の表情には、相変わらず笑顔が浮かんでいる。少年は口を両手で覆った。
「自殺……? どうして……」
「簡単よ」
彼の背後から、今度は気が強そうな女性の声が聞こえる。彼が再び振り返ると、予想した通り、いかにも気が強そうな少女が腕を組んで立っていた。
彼女には、今まで少年が見てきた住人たちと決定的に違う所があった。
「ここじゃ話しづらいから、ついて来てよ」
彼女は、笑っていなかった。
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