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「街自体は綺麗でしょ? 見るだけならいい場所よ」
「そうだね。こんな綺麗な場所、見た事ないよ」
欲望と権力に汚された、他の街とは違う清廉さ。それが、この街をより美しく見せているゆえんだろう。
しかし、その美しさに混じり気がない故に、何か物足りなさというか、薄っぺらさを感じるのも事実である。
「でも、この街の外は違うわ。この街で死んだ人たちのお墓が、そこら中に並んでる。さっきの自殺者も、そこに加わるの」
「皆、自殺したの?」
透明な水を湛えた川、その上に架かる石橋を渡りながら、二人は会話を繰り返す。
人の往来が全くない橋には静寧さが満ちており、何とも素晴らしい様相を見せていた。
打てば響くような静寂の中、少女は答える。
「もちろん、それが全てじゃない。事故で死んじゃう人もいるし、病気で死ぬ人もほんの少しだけどいる。でも、自殺者ほどじゃないわね」
「殺人は起こらないんだね」
「そのために造られた街なんだから、当たり前よ。無益な争いが起こらない世界のサンプルが、この街なの。有益な争いも起こらないけど」
「有益な争い?」
再び少年が放つ問いに、少女はそう、とだけ答えた。コツンコツンと音を立てる石橋を渡りながら、彼女は少年に手招きする。
場所を変えるつもりらしい。応じた彼は、少女に追従して橋を駆け降りた。
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