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「ここは……」
「お墓よ。この街に住んでた人たちの、ね」
少女が案内したのは、青々とした樹々が生い茂る山の麓。特にめぼしい物は見当たらないその場所で、少女は両手を合わせ、跪いた。
墓標も何もない、ただの原っぱ。そこが、光の街の住人たちが眠る墓地だ。
「死ぬ人が多すぎて、墓石も足りないのよ。地面にただ埋められている人たちが、ここに眠ってるの」
「石がない……なら」
悲愴な笑みを浮かべる少女を見てから、少年は視線を自分の掌に落とす。
その手を握り締めた彼は、少女が訝るのを横目に、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「死者に安息の眠りを。グレイブ」
彼がそう言葉を紡ぐと、何もない空き地は明らかに変化した。
ただ雑草が生い茂っていただけの山麓に、無数の四角い石が現れたのだ。地面の中から迫り出してきたそれには、しっかりと文字が彫り込まれている。
彼が呼び出したのは、墓石だ。
「へぇ……魔法、使えるんだ」
「ちょっとしたものはね。お墓、あった方がいいでしょ?」
そう言いながら、少年は辺りに群生していた白い花を摘んでゆく。ある程度の本数になったところで、彼は少女にそれを何本か手渡した。
「お墓に供えよう。手伝ってくれる?」
「もちろん」
「ありがとう」
少年は心底嬉しそうな表情を浮かべ、少女に白い花を手渡す。
花を受け取った少女は、少し照れくさそうに笑いながら、無数の墓石が並ぶ山麓に視線を移した。
「こっちこそ、ありがとう。お墓を作ってくれて」
二人は明るい笑顔を浮かべながら、いくつあるかも分からない墓石に花を供え始めた。
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