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「暗くなっちゃったね」
少女はぽかんとした顔で空を見上げ、呟く。空一面の黒と、綺麗に欠けた三日月、散らばる星屑は、これもまた絶景である。
今まで出来なかった、死者の供養。遅れてしまった事を詫びるように花を供え続けた二人は、時間から抜け出したような錯覚を覚え、気付けば夜になっていたのだ。
しかし、二人の顔は充足感で満ちている。
「これで、皆安らかに眠れるわ。本当にありがとう」
「大した事はしてないよ。それに、お墓も墓石もなくたって、君は毎日祈っていたんでしょ? 形はなかったけど、今までのままだって皆満足してたよ、きっと」
形だけ繕っても無駄なものがある。墓石という物体もそうだ。
『墓石』というモノだけが存在しても、それだけでは死者の供養に繋がりはしない。
墓石という物体は、『心』が籠らないとただの石だ。見てくれでは死者を悼んでいるように見えるが、死を悲しむ気持ち――安息を願う心がなければ、石以上のモノには昇華し得ない。
薄っぺらい追悼を刻んだだけの石などに、人に安息を与える力はないのだ。
「そういえば……あなたは、どこから来たの?」
「……分からないんだ。何でここにいたのか、もっと言えば、今までどこにいたのかも」
少年は、記憶を失っていた。自分が今まで生きてきた世界の事も、ここに紛れ込んでしまった理由も、彼には分からない。
もちろん、記憶を失った理由も分からない。言わば少年は、この街で生まれた赤ん坊のような状態だ。
「これからどうするの?」
「分からない。戻れるなら戻るかもしれないけど……」
少年は、その瞳に迷いを湛えていた。記憶から消え去った故郷と、初めて訪れる街は同義語だ、と言っても過言ではないだろう。
自分が全く覚えていない世界で、今まで過ごしてきたであろう幸せな日常を、復元することは可能なのだろうか?
明白な答えの出ないその問いが、少年を迷わせる要素の一つであった。
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