―刀の鞘を持つ女―

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健太が部屋に入ると、銭が入った巾着袋が健太のおでこに飛んできた。 もちろん健太はいきなりの事で避ける事も出来ずに、見事におでこの真ん中に命中した。 「いってぇぇ!?」 「当たり前さね。おなごの部屋に無断で入るなんてねぇ」 灯は当然の事を言ったが、健太は聞いている様子もなく、 「いてぇ!!」 と、喚いているばかりであった。 どうやら礼儀をちゃんと聞いていないというのは本当のようだ。 「えっ?ていうか、金?」 健太は先程自分のおでこに当てられた物を、疑うように見た。 「そうさね。泊めてもらう宿賃。ほんの礼だよ」 灯は「どっこらせ」と座りながら、そう言った。 すると健太は目の色を変えて、 「やったね!くれんの!?灯太っ腹!」 と、今度は違う意味で喚き出した。 「阿呆。誰があんたにやるかね。かみさんにだよ」 灯は溜め息を吐きながら、自分の着物の袖からいろいろと小物を出して、部屋にあった机に置いていった。 「えぇ~!?ケチぃなぁ」 健太はブツブツ言いながら、「ん?」とある事に気付いた。 「灯、お前何で鞘差したまんま座ってんだ?」 侍は普通座る時に、刀を鞘ごと腰から抜いて座るのが普通である。しかし灯は座り難いにも関わらず、腰から鞘を抜かずに座っていた。 そう言われ、灯は自身の腰に差してある鞘をチラリと見て、 「秘密さね」 と、意味深な笑みで答えた。
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