―夜間の闘―

8/8
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
健太は己の頭に、刀が振り降ろされて来るのが分かった。 それでも身体は動かず、目を瞑ることさえ出来ない。 (死ぬ) そう確信した。 その時、何か素早く動くものが眼の端に映った。 それは灯だった。 灯は男の右脇腹を飛び蹴りの様な状態で蹴った。   男はまた吹っ飛ばされる。 灯はそのまま勢いを止める事なく健太に突っ込み、田んぼに倒れ込んだ。 そして直ぐ様起き上がり、自身の着物の裾を破り、それを健太の肩に巻いた。 どうやら先程男を蹴った時に、男の刀が健太の肩にかすった様だ。 右肩に出血が見られる。 「・・・うっ」 健太は気を失っている。 灯はそれを直ぐ様確認するや、田んぼの泥を一握り取った。 そして体勢を整えて向かって来ていた男の顔に投げつける。 男の動きが、一瞬怯んだ。 灯は地を強く蹴った。 男は刀を構えながら目の周りの泥を取り、己の敵の姿を捉えようとした。 しかし灯の姿はなく、健太が田んぼの中に倒れているだけ。 男はハッと上を見上げた。 灯が舞い降りるように落ちて来る。 「あんたはあたしの異名を知ってるかい!?」 灯は右手の肘から指までを真っ直ぐに伸ばした。 その手に殺気――いや灯達からすれば妖気。   それが目で見て取れる様に取り巻く。 灯は男に向かって右手を突き出した。 「その喰われた頭で覚えときな!あたしの名は――!」 ドシュッ 「――妖間(ようま)」 真っ赤な鮮血と共に、月明かりの元に灯は己をそう呼んだ。    
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!