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女がゆったりと来ているのに気付かず、その村では。
「健太!ちょっとお待ち!」
華奢で二十を過ぎたであろう女が、もの凄い形相である一人の男の子を追っていた。
手にはご太い大根が握られていた。
「だぁ~れが待つかってんだ!」
あかんべぇと言い放ち、健太と呼ばれた男の子は村の家通りを獣が如く速さで走った。
その様子を、村人達は「またか」と呆れ顔で笑って見ていた。
まだ十ぐらいの齢で、髪を頭の上の方で結んでいた健太は、村一番の助平で名が通っていた。
どうやら大根を持った女は、その健太に尻を触られたらしい。
「まったくあんたって子は・・・!」
女はゼイゼイと息を荒くし、やがて疲れその場にペタンと座りこんだ。
その様子を走りながら振り返って見ていた健太は、
「へへ~ん!今度は触られない様に、尻にでも針千本いれときな!」
などとハレンチ極まりない暴言を吐き捨て、前も見ずに更にスピードを出して駆けた。
――と。
「――おい、そこの餓鬼」
健太は一瞬何処から声がするのか分からず、とりあえずと言った風に前を振り向いた。
すると村の門の下に、笠で顔を隠した女が立っていた。腰には刀をいれていない鞘が差してあった。
しかし、健太はそんなゆっくり見ている暇はなく、
「どいてくれぇぇぇ!?」
と、急ブレーキをかけながら叫んだ。
だが女は気にした風もなく、
「何だい、止まれないのかい?」
と、笑みを浮かべ軽口をたたきながら、突っ込んで来る健太をフイッと軽く避け、横を通り抜ける健太の首根っこをグイッと掴んだ。
健太は「グエッ」とうめき、ぶら下がる様な状態で止まった。
「随分と足が速いねえぃ」
女はカカッと笑った。
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