13人が本棚に入れています
本棚に追加
痛くても、お腹が空いても、暗くても、音が消えても、動きがなくなっても、今にして思えば、僕がここまでこれたのは思い出のおかげだった。
大好きな孝太、笑顔のママ、いつも僕を励ましてくれていたんだと思う。
僕はこれから頑張れるんだろうか。
思い出そうとしても思い出すことが出来ない。
気付くまもなく思い出は僕から離れていってしまっていた。
何も考えられず、目の前の光景を見続けるのは辛すぎる。
それでも、僕が目を開けていられたのは、目の前に見えるママを一人にしたくないという一心だったんだろう。
目を閉じてしまうたびに、瞳の中で孝太を見た。
瞳の中ではもう何度も会っているはずだったけど、そのつど僕が感じるのは初めて会ったかのような不思議な感覚になっていた。
孝太のもとへ駆け出したい衝動に毎回かられた。
僕の足が、その一歩を踏み出そうとするが、それを毎回止めるのはやはりママへの気持ちだった。
何度も繰り返されることに僕は気付きもせず、一生懸命ママのもとへ戻り続けた。
ママが一人ぼっちにならないように、僕はがんばって目を開けた。
だけど僕の瞳も僕の言うことを聞いてくれなくなってしまった。
僕はよりふかく目を閉じてしまった。
繰り返される思いと行動。
新たに思い返される気持ち。
はやく目を開けなくちゃいけない。
でも、僕が目を開けることはなかった。
今度は瞳の中にママもいた。
大好きな孝太と大好きなママが笑顔で僕を呼んでくれた。
僕は安心して鳴き声をあげた。
もうすっかりかれてしまっていた僕の声は、嘘のようにたからかに響いた。
嬉しくて二人のところに駆けてった。
僕の体はまるで羽根のように軽くて、飛ぶように二人のそばに行くことが出来た。
まるであの日に戻ってきたように、二人はいつもの笑顔で僕をなでてくれた。
僕たちはまた三人で歩くことが出来たんだ。
こんなにうれしいことはないよ。
もう僕は、目を開けなくてもいいんだ。
最初のコメントを投稿しよう!