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『バイクを壊されて苦労する気持ちだけは知ってるからよ』
それより早く金額を教えろと、付け足し欠伸をする。
一瞬唖然とするが、次に我に返って笑い出す男。
「ククッ……こりゃあ傑作。気に入ったよアンタ、特別に金額は半分にしてやるよ」
懐から紙切れとペンを出し金額を書いてレイに渡す。
受け取ったレイは金額に目を通すと、ポシェットを漁りながら男に言った。
『アンタ、名前は?』
「はぁ?一体それが--」
『いいから教えなさい』
有無を言わさない言葉に疑問を覚えながらも渋々口を開く。
「………ケビン……………ケビン・ヲォッカ」
『ヲォッカ………あぁ、バイク製造大手会社の社長』
「なんで知ってる……って、おい!」
サラリとレイの言った言葉に目を見開く男だが、レイはそれをスルーして書いていた一枚の小切手を渡す。
男は仕方なく小切手に視線を移し、その瞳は驚愕に包まれる。
「レイ…ン……まさかっ!」
急いで顔を上げるとソコには既に、レイの姿はなかった。
残ったのは燃え尽きそうなバイクの亡骸と眼帯を着けた1人の男だけ。
「ハッ……命拾いしたのは俺の方ってか…………」
もう一度、渡された小切手に視線を落とし笑みを零す。
「本当、面白い奴だ………」
請求先と金額の隅に書いてあるメッセージはこうだ。
《請求先は私の上司よ。一応私の名前も書いたけど
私もバイク好きなの、だからアンタの常連になってあげるわ》
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