目を瞑って見ない振り

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今日もいつもの様に、部長である跡部の仕事を手伝っていて。 そう、確か、明日の部活の練習メニューについて話し合っていたんだと思う。 「これはこっちやろ、」 「あぁん?この程度一日で出来なくてどうすんだ。」 「普通出来へんやろ。跡部やあるまいし。」 「……どういう意味だ。」 「褒めてるだけや。」 「ならもっと褒めてる様に言えよ。」 と、いつもの様に軽口を言い合っていると、不意に会話が途切れた。 お互いに意図していた訳では無いその沈黙にちらりと相手を見遣る。 (あぁそういえば、こーゆうん、何かが通るて言うやんなぁ、) 何やったっけ、と思考を巡らしていると、気付けば目の前に先程まで少し離れた場所にあった青い瞳があって、 唇に、何かが触れていた。 とても自然な動作だった。空気を吸うように。瞬きをするように。 恋人に愛を伝えるように。 (……………そうや、天使が通る…、) 場違いに思い出して、 あぁ、そうそう。と思考が違う方に持っていかれる。 気付けば何時の間にか跡部の唇は離れていて、 「行くぞ。」 鞄を持った跡部が席を立っていた。 「………おん。」 俺も適当に机を片付けて席を立つ。 俺は何も言わんかった。 跡部が何も言わんから。 跡部も何も言わんかった。 多分、俺が何も言わんかったから。 それからあいつは時々俺に触れてくるようになった。 唇でだったり、指先でだったり、 それでも、俺は何も言わん。 あいつも、何も言わん。 言ってしまえばどうなるか、知っていたから。 .
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