もうひとりの僕

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僕の名付け親は死神らしい……らしいというのはいまいち実感が沸かないから、そう思っている。 数日前に酔っ払った父さんが寝言に近いくらいのあやふやさで言っていたんだ。 「クロエ。おまえの名前はわしや母さんが名付けたんじゃないんだよ」 「では、おじいさん?それともおばあさん?」 「いいや、違う。死神だ」 「死神?」 「そう。キレイなそれはキレイな女でな……わしはぞっこん一目惚れしそうになったんだ。でも……わしの手の中には産まれて数日のおまえがいたからな。口説くわけにもいかんだろ?」 そこで父さんはいやらしい笑みを浮かべた。 僕は少し嫌な気分になったけど、話の続きが気になるので我慢して尋ねた。 「そのキレイな女性が死神だったの?」 「おう。そう言っていた。わしが名付け親を探しているんだって言ったらニッコリととろけるような笑顔でこう言ってくれたんだ」 「なんて?」 『私が名付け親になってあげましょう。きっとお金と名誉に満ちた幸福な道を歩むことでしょう』 「だから、クロエ。おまえの守護者は死神なんだぞ」……とゴニョゴニョと呟いて父さんは眠りに落ちてしまった。 僕はなんだか腑に落ちない気持ちになったんで、思い切って母さんに尋ねてみた。 「ねえ。母さん。僕の名前は誰が名付けたの?」 「あら。クロエ。おまえの名前だって?確か……街の通りに店を構えている占い師のばあさんじゃなかったかしら……。酔っ払った父さんがまだ小さいおまえを連れ出して居酒屋で飲んでいたら、隣の席に座っていたばあさんが水晶玉で占って『クロエ』にしたらいい……なんて言ってたって隣家のハンスが言ってたわよ」 やっぱり父さんの話はデタラメだったんだって僕は安心した。でもそれを本当に子供の名前にしちゃうの?と僕が呆れていると、その思いを察したのか母さんがこう言った。 「だって、しょうがないじゃない。ウチにはもう12人も子供がいて……考えられなくなっちゃったんだもの」 「母さん!お腹すいた。ご飯まだなの?」 「母さん!キリクが怪我しちゃったよう」 僕と母さんが話していた台所に他の兄弟達がやってきて、母さんにまとわりついた。 母さんは「もう良いでしょ?」みたいな顔で僕を見てから、他の兄弟達の世話をやきはじめた。僕は仕方ないので不満を持ちながらも台所を後にした。
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