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僕はすぐにその考えを消そうとした。僕は矢上を助けなくてはならないのだ。いつも彼が僕にそうしていたように。
だがその思いとは裏腹に、僕の体も崖側に引っ張られていた。体勢を維持するのが精一杯で、とても引き上げることはできそうにない。少しずつ僕の体は矢上に近づいている。
落ちる。そう思った。
僕は激しい不安に駆られ、思わず矢上の顔を見た。彼も僕の方を見て、穏やかな目で頷く。僕はその目に不思議な安心感を覚えた。それまでの不安は残らず吸い取られていき、同時に腕から力が抜けていく。
矢上は唐突に、僕の腕を離した。
すぐそばで、雷鳴が轟いた気がした。
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