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「ねぇ、私のこと、好き?」
ブランコの横の花壇で花を眺めていた鈴野が、突然こちらを振り返って言った。僕はベンチに座ったまま答える。
「ええ、好きですよ、鈴野さんのこと」
「ありがと」
そう言って彼女は優しく微笑み、また花壇に目を落とした。その笑顔がたまらなく憎い。
僕は彼女が嫌いだった。彼女は美しく、性格も穏やかでこれと言った欠点があるわけではない。
僕が嫌いなのは、彼女の中にある純粋無垢な心だった。彼女は疑うことを知らず、ただ盲目的に僕のことを信じている。
その純粋さで、いったいどれだけのものを傷つけてきたのだろう。それでも彼女に罪の意識はない。それに気付くのはずっと先か、あるいは永遠に気付かないのかもしれない。僕はそのことに憎悪しているのだ。
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