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矢上は僕の親友だった。家が隣同士な上、生まれた年も一緒だったため、人生のほとんどを彼と過ごしていたと言っても過言ではない。とにかく彼と僕は物心付いたときからずっと行動を共にしてきたのだ。
矢上は何も言わずに山道を歩いた。少しずつ道も険しくなってくるが、彼は迷いなく道を進んでいく。それと同時に、後ろにいる僕が見えているかのように僕の歩幅に合わせて速度を変えていた。僕が蹴躓けば一瞬止まり、疲れてくると速度が緩む。だから僕は安心して獣道を歩くことができた。
矢上は親友であると同時に、心から尊敬し信頼できる存在でもあった。勉強の成績は僕の方が上だが、恐らく彼はそんなものよりずっと大切なものを持っている。きっとそれは生まれ持った才能のようなもので、僕や他の人には到底手に入れがたいものなのだ。彼の中には底なしの青が広がっていて、いつも僕を包み込んでいるような気がした。
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