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そうするうちに、小粒の雨が降り出した。矢上は迷わず防空壕の中に入り、僕もそれに続く。天候に対する彼の自信の根拠はこれだったのだと合点した。
中に入るとすぐに雨は本降りになり、激しく地面を叩く音が聞こえ始めた。防空壕には生暖かい空気が流れていて、淀んだ川のような臭いがした。
辺りには小さな木箱がいくつか置かれており、彼と僕はそれを椅子にして二人で外を眺めた。
外にいる時は気が付かなかったが、ここからはふもとの町が一望できるようだ。だが雨が叩きつけられる道や家には時間が止まったように動きがなく、僕は水没した都市を連想した。その光景は神秘的で、僕も泡になってその中に浮かんでいるような気分になった。恐らく隣町だろう。いつの間にかずいぶん遠くまで来たらしい。
町の景色を眺めながら、ずいぶん長い間穴の中で矢上と話をしながら過ごした。主な内容はこの場所の使い方のことで、矢上も僕も心を浮き立たせながら意見を言い合った。
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