僕らが出会った夏の始まり

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僕らが出会った夏の始まり

♪  ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、クラスメイト達は、いそいそと帰る準備をはじめた。  今日は7月19日、終業式。明日からは、待ちに待った夏休みがやってくる。  クラスメイトの中には、よっぽど夏休みが恋しかったのか、浮き足立った足取りで準備を進める者もいれば、暗い表情でため息をつきながら、準備を進める者もいた。  それもそのはず、今日が終業式となれば、通知表も返ってきた訳だからだ。  僕、山下淕(りく)の通知表の内容は、高二の今の時期にはあまり良くない結果だった。  けれど、もともと細かいことを気にしない性格だったので、普通ならば後者側の気持ちで夏休みをむかえるはずなのだが、僕はあまり気にしていなかった。 だからといって浮き足立った訳でもなく、ただ、成績についての関心がなかった。 「そうだな……本屋でも寄ろうか。」 夏休み明けのテストで面倒なことになるのが嫌なので、僕は本屋で参考書を買って帰ることにした。 夏休みに入ったら極力家から出ないつもりだ。 「おい、淕。今日今から暇か?」  僕が帰る用意をはじめると、友人の杉村葉助が話し掛けてきた。 「本屋寄る。」  僕はそれだけ言って帰る用意が整ったので教室から出ようとした。 「待てッ待て!そう先を急ぐな。まだ俺の話は終わってねえ。」  葉助に必死で呼び止められて、僕は仕方なく扉の前で足を止める。 「何?」 「だからッそのッ。ちょっとでいいから俺の家こないか?」 「何しに?」 「そのさ、一人より二人っていうし、オフクロも淕に会いたがってるし。」  その発言のみで僕は葉助の意図を理解した。つまりこのまま成績をみせるとこっぴどく怒られるので僕に一緒にきてほしいということだ。僕の存在でおばさんの気が緩むかもしれないからだ。  もちろん僕は丁重に断った。 「悪いけど、僕は本屋で参考書を買うつもりだから。おばさんによろしく言っといて。」 「淕ゥ~。」 「甘えた声出さない。潔く家に帰っておばさんの肩でも揉んであげなよ。」  僕はそう言って教室を後にした。葉助の我儘に付き合った時ッていいことないし。  僕が教室を後にした後、一人残された葉助は、クラス中の注目の的となっていた。「淕の馬鹿やろー」と小声で呟くのが聞こえなかった訳ではないが、僕は気にせず帰ったので、クラス中にからかいの声をかけられていた。「どんまい」とか「頑張れ」とか。
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