想いまでの距離

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「俺も入れろよ」 「入れろって何やれんのお前」 「ベースでもギターでもお望みもう一本、と奴が抜こうとする箱を俺はひったくった。 「悪いけどベースとギターは間に合ってるんでね」 「ま、そうつれなくすんなって」 奴は器用に長いリーチを伸ばして 知らないうちに抜き取った煙草をはさんだ指を見せてにっと笑った。 「俺、結構重宝するぜ?」 しかし俺の脳裏には先週の双葉の白いブラウスだとか甘い薫りだとかそういうものが蘇ってきて、バンドがどうとか考える余裕も無かった。 工高の文化祭。 俺とランマはそれを最後に抜けることを決めていた。 バックステージでそれを告げて帰ろうとする俺とランマを 校舎裏で奴等が加勢を連れて取り囲んだ。 喧嘩で俺とランマに叶う筈はないから、奴等にしては頭の良いやり方だと思う。 俺とランマはぼろ布のように叩きのめされた。 奴等の一人が俺のベースを振り上げて叩き付けようとした瞬間だった。 「喧嘩よ喧嘩!」 「きゃあああ 誰か来てえええ」 女の金切り声がして奴等は舌打ちをするとばらばらと走り去った。 「あれ?星くん?」 「のびてるだけよ。誰かよばなきゃ」
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