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謹慎が溶けて学校に戻った俺に、相かわらず腫れ物にさわるように扱うクラスの連中にお構いなく、双葉はしきりに話し掛けるようになった。
工高でやったギグのこととか、いつからなんで鬚を伸ばしているのだとか、髪が綺麗だけどどんなシャンプー使っているのだとかベースとギターはどこが違うのだとかよく動くくるくるした瞳で無邪気に俺を覗きこんでそしてよく笑った。
変な女
そう言ったらひっどおいと膨れて、そしてまた笑った。
もしもし松くん?最近仏頂面に拍車がかかりましたよと俺の眉間の皺を伸ばそうとするから俺はそのサラリとした髪から溢れる柑橘系の薫りにどぎまぎして触るなよとたじろいだ。
浮き立つ気持ちを抑えようとするけどコントロールできない。
だから、それでも俺にまとわりつく双葉に無愛想にしか対応できないのがもどかしかった。
3年になった。
クラスは変わったけど、双葉は相かわらず廊下で俺を見つけては無邪気に手を振ったり、教室を覗き込んでは俺に駆け寄った。糞面白くも無え学校が何故か急速に楽しくなった。
バンドの方も確かに西園寺は重宝な奴で 生徒会長の権限を大いに利用して学校で禁止されているライブハウスだとかそういうところへのコネクションもみつけてきてくれた。
ある日のことだ。
「なあ、俺の後輩なんだけどいいボーカルいるんだぜ。会ってみねえ?」
「後輩?」
「っても俺たちとタメなんだけどな」
「なんだそりゃ」
三人で出掛けたライブハウスでそいつは確かに魅力的だった。
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