7人が本棚に入れています
本棚に追加
決して歌は上手くないし、生意気だし。しかし俺たちと求めているものの色が近いような。そんな氣がしたんだ。
ライブが跳ねた後、トミーが奴を俺達の待つファミレスに呼んできた。
「いっすよ」
奴は簡単に答えた。
「俺、松さん達のギグみたことあるし。一緒にやってもいっす」
生意気だが思いのほか礼儀正しい奴は綾小路といった。
「だけどいっこだけ条件あるんすけど」
条件?
「俺、ずっと一緒にやってきた奴がいて、そいつと一緒ならやらして貰います」
「そいつ何やれんの?」
ランマが身を乗り出した。
「ベースっす」
やれやれ。世の中はベーシストで溢れていやがる。
「お前、それは無理だよ。うちはベーシストの松が中心なってるんだぜ?」トミーが諌めると綾小路はトミーに負けじと劣らない本数目の煙草に火をつけた。
「いや、だからベースでなくても、コーラスでもダンスでもパシリでもいいす。そいつのダンス、結構いけてるんすよ」
俺等は顔を見合わせた。
「ま」
トミーがその場を納めた。
「お前、そいつ一度連れて来いや。それで決めよう」
「わかりました」
「なあ、わくわくしてきたなあ」
ランマが珍しく大声を出した。
「久し振りに思いきりやれるかもしらんなあ」
俺もわくわくした。
今度はいつギグやるの?
双葉から何度となく浴びせられた質問に答えてやれるかもしれない。
あいつは何というだろう。
喜んでくれるだろうか。
絶対行くのにって言ってくれた。
来てくれるだろうか。
そうしたら俺は口には出せない想いを音にしよう。
届くだろうか。
双葉の薄茶がかった瞳にそれはどういう風に映るんだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!