反 時計 廻り

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 吸血鬼は不味そうにウィスキーを飲み干すと、人間とかけ離れた鋭い爪で手首を切った。  目の前に赤が広がる。溢れ出る血液。世界で最も欲を満たすことのできるもの。鮮血である。  しかし、自らの血の流れゆく様を眺めているだけで充実感は得られるはずもない。  どんなに強い酒や嗜好品の類も彼の吸血欲求を打ち消すことができなかった。だが、彼は一度も“生きたまま”の人間の血を飲んだことはなかった。  人間の血はこの上なく美味だが、人間という生物はひどく煩わしいものと知っていたからだ。
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