反 時計 廻り

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 夜のカーテンは、犯罪を隠してくれる。月の光は魔物を駆り立てる。特に、満月の日は。  雑踏の跡すら残らない夜の街で、吸血鬼は冷たくなった屍を前に唖然としていた。人間の殺し屋に注文した“死したばかり”の人間とは違っていたからだ。  殺し屋シルバーは言う。 「注文通り、死体だ」  注文通りではない。これでは血の鮮度が悪すぎる。 「おまえの名前からして嫌な感じはしていたさ。ふざけるな。鮮血でないと、口に合わんのだ!」  銀という名の殺し屋は悪びれる素振りもなく、冷たい金属のような目をしていた。 「バケモノが。文句があるなら、自分で殺しゃあいいでしょうよ。バケモノなんだから」  夜の闇は深く。殺し屋の姿はすぐに消えてしまった。  吸血鬼はやるせなく、すっかり冷たくなったカラダを犯した。歯を屍に突き刺し、ゆっくりと血を吸い出す。  喉を鳴らして飲み込むが、泥水を飲んでいる気分だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加