其ノ壱

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今日は風が暖かい。 流れる雲を見ながら仕事までここに座っている。それが彼の日課だった。 「……お前」 不意に影ができる。 視線を移すと、そこには鈴村がいて、呆れた顔をしていた。 「おや。お侍様」 「他にやることないのか?」 半目に近い目で自分を見下ろす鈴村に、胡蝶蘭は首を傾げた。 「お侍様こそ、お仕事はないんですかい?」 訊かれて、鈴村は「非番だ」と頷くと胡蝶蘭の隣に腰を下ろした。 「…昼飯は食ったか?」 鈴村は背中に背負っていた布を解くと膝に乗せた。 「いいえ。夕食の残りを朝食に食べましたがね」 「お前は煌びやかな着物を持っているくせに、貧乏なことを言うんだな」 鈴村は片眉を上げて胡散臭そうに胡蝶蘭を見た。 「あんな高い着物なんか着たいわけじゃないですよ。商売柄しょうがないんです、お侍様」 胡蝶蘭は一瞬だけ目を伏せたが、鈴村はそれを見逃さなかった。 布から葉の包みを取り出し、 「食え。」 と、突き出す。
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