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「…特にどうしたと言うわけではありません。」
胡蝶蘭は隠したことを後悔し、溜め息をついた。
嘘は見破られる。
「夜毎客の相手をしていますとね、色んな客がいましてね。たまに拳を振り上げる客もいらっしゃるんですよ」
正直に、だが何でもない事のように笑う。
その笑顔に鈴村は片眉を上げた。
「化粧で隠してるのか」
「……はい。だから見破られるとちょっとばかし困るんで……」
不意に傷が熱を感じる。気付けば痣に触れられていた。
「…お侍様…?」
「…痛くないのか?こんなに大きな痣…」
哀れむかのような目をして、優しく優しく痣を撫でる男に、胡蝶蘭は目を伏せた。
「…何ともありませんよ」
やりにくい。
この男はやりにくい。
優しすぎる……
「……胡蝶蘭?」
「………。」
自分の手のひらに頬を擦り寄せ、何か物言いたそうにする胡蝶蘭に、鈴村はもう片方の手で頭を撫でた。
辛いだろうに…。
そう思うといたたまれない。
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