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「お侍様。あんた昨日の晩は何を召し上がりました?」
突然の問いに鈴村は戸惑った。
男は続ける。
「今朝は何を食べました?今日の昼は何を食べました?…今日の晩は何を食べるんですかね?」
獣のように爪を立て鈴村の胸元に触れる。
そして女のように甘い声で
「あたしもご飯が食べたいんですよ。」
と言った。
誘惑的な目だ。
鈴村は少し考えると懐を探った。
「少ないが…」
銭を出し、男に差し出す。
すると男はきょとんとした目でその銭を見つめると、さもおかしいものを見たかのように笑い声をあげた。
「勘違いしないでくださいな、お侍様。あたしは物乞いじゃないんですよ。確かに道端に座っちゃいますがね、別に何を恵んでほしくて座ってるわけじゃないんでさ。そりゃ食べかけのにぎり飯でも放ってくれりゃ食いますがね」
まだ喉で笑いながら男は鈴村の着物から手を離した。
そして背中を向けると歩き出す。
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