其ノ壱

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「お侍様。あんた昨日の晩は何を召し上がりました?」 突然の問いに鈴村は戸惑った。 男は続ける。 「今朝は何を食べました?今日の昼は何を食べました?…今日の晩は何を食べるんですかね?」 獣のように爪を立て鈴村の胸元に触れる。 そして女のように甘い声で 「あたしもご飯が食べたいんですよ。」 と言った。 誘惑的な目だ。 鈴村は少し考えると懐を探った。 「少ないが…」 銭を出し、男に差し出す。 すると男はきょとんとした目でその銭を見つめると、さもおかしいものを見たかのように笑い声をあげた。 「勘違いしないでくださいな、お侍様。あたしは物乞いじゃないんですよ。確かに道端に座っちゃいますがね、別に何を恵んでほしくて座ってるわけじゃないんでさ。そりゃ食べかけのにぎり飯でも放ってくれりゃ食いますがね」 まだ喉で笑いながら男は鈴村の着物から手を離した。 そして背中を向けると歩き出す。
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