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「いかがなされましたか?」
急に背後から声がした事に驚き、僕は咄嗟にドア側へと跳ね除けた。
見ると、首からエプロンを掛けた初老の紳士が、微笑みながら僕を覗き込んでいた。敵意は感じられないものの、目の奥が笑っていない様に感じられるのは気のせいだろうか。
どこかに胸騒ぎを覚えながら、僕は『大丈夫です』と答えた。
「いらっしゃいませ」
初老の紳士は深々と丁寧に頭を下げる。そうだ、この人も憶えている。僕の残像めいた『ミスティ』に出てくるマスターだ。
僕も慌てて立ち上がり、彼に挨拶した。
店内を見回してみると、唯一カウンターまでならなんとか行けそうだ。
僕はマスターに案内されるがまま、ミスティの店奥へと足を進めた。意外なほどカウンターの周りは落ち着いている。木漏れ日程度とは言え、わりと明るい。
入口を覆い隠すかの様に生えていた植物もここには殆んどない。
唯一カウンターの上には季節外れのひまわりが咲き誇っている。とは言っても一輪挿しの様相じゃ、よく出来た造花かも知れない。
「何にいたしますか?」
僕は取り敢えずメニューも見ないでコーヒーを注文した。先ずは何より落ち着きたかったからだ。
マスターは『はいよ』と返事をしてサイフォンの下に火を入れた。
もう一度、店内をよく見回してみる。このカウンターの周りだけぽっかりと拓けていて、やはりジャングルに迷い込んだかの様な情景だ。
ここら辺は、僕の記憶とも合致する。
窓がこの席からはよく見えない。状況からして、恐らくさっきの刺す様な視線はこのマスターのものだろう。
だがその質問を、今目の前の人にぶつけるのは怖い。僕はここまで出掛かった疑問を、苦いコーヒーと共に飲み込んだ。
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