第2章

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 飛び込んだそこには、誰もいなかった。いや、『人がいられる様な雰囲気ではなかった』と言い表した方がいいのかも知れない。  ―カラカラン―  と云うドアベルの音と共にドアが閉まった。薄暗いジャングルの様な店内には、営業していないからだろうか、電気も点いていない。  足元には巨大な観葉植物の植木鉢が倒れ、それはあろう事か店内の床に根を張り、その先に進む事を完全に拒んでいる。  かなり以前から、営業していたとは到底思えない様相に一抹の不安を覚え、僕は背後にあるはずのドアノブを手探りで探した。  あった!  手に触れるその金属質の触感は、紛れもなくドアノブだ。ただ、ドアノブと共に手に伝わってくる周りの触感が、入ってきた時とは微妙に違う。  僕はそれでも早くこの場を逃れたい一心で、ドアノブを捻った。  ……ドアノブが回らない?  そんなバカな、と思って振り返ると、そこにあるのは板張りの壁だけで、今入ってきたはずなのに、そこにはドアと呼べる様な代物は何もなかった。  今さっき僕が握っていたドアノブは、その壁から生えている。  目を上げると、先ほどカランと鳴ったドアベルも、その上部から生えている。  この『生える』と云う、まさに植物が土から生え出た様にしか見えない異様なオブジェに、僕は言葉を失った。  押してダメならと、今度はドアノブを手前に強く引いてみる。  なんと、ドアノブは根ごと引っこ抜けた。  それはまるで大地に植わった植物を引き抜いたかの様に、スポッと抜けた。  完全に帰路は絶たれた。  僕はその絶望感でいっぱいになり、その場に座り込んでしまった。
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