9535人が本棚に入れています
本棚に追加
「隆秋」
しかし今度は隆秋が名前を呼ばれ、詩音は足を止めた。
「電車、もうすぐ来る」
「いいよ、次を待てば」
そう告げれば、詩音はてかてかと隆秋の隣に戻ってきて、その手首を掴んだ。
恥ずかしそうに明後日を向く詩音を見ながら、隆秋は小さく笑った。
やっぱり、一緒のほうがいいかもしれない。この手の温もりを、ずっと近くに。
「行こうか」
「うん!」
詩音が笑顔で頷くと隆秋も笑顔を返した。
二人の間に、秋風のような冷たい風が吹き抜けると、顔を見合わせて、また二人でクスクスと笑った。
無情のピアノ姫 ―完―
2009/01/25 By 蓮咲紗夜
最初のコメントを投稿しよう!