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黙々と食べているそばで、シゲはいつの間にか出ているお茶をすすっている。
「シゲ、ごめん」
「早く決めないナツが悪い」
「……っ」
余りに正論過ぎて言い返せない。
食べ終わるまで待って、声を掛けられた。
「美味かったか?」
「うん」
シゲが片手を上げる。
「おばちゃん、お勘定」
おばさんが近くに来て精算を始める。が、伝票を持った手を止めてシゲに声を掛けた。
「お金は一緒に貰ってよろしいんかなぁ?別々?
安いんやから、にいさん、ごりょんさんの分払ろたりなさいな」
「ごりょんさん?」
聞き慣れない言葉に小首を傾げる。
「関西の言葉でお嬢様っていう意味や」
「ナツが、お嬢様?」
シゲが奇妙な顔をして私を見る。
どうせお嬢様っていう感じじゃないわよっ!
シゲを睨み返す。
そんな私を無視するように、おばさんがシゲに耳打ちする。途端、シゲが真っ赤になって固まった。
め……珍しい。毒舌で有名な彼が固まるなんて!
おばさんがシゲに言っている言葉がかすかに聞こえてきた。なるほど。シゲにしたら、殺し文句に似てるかもしれない。
「その様子やとデートなんやろ?
ここは男やねんからばーんと出して、おごったあげたらどうどすのん」
そう言った後で、しれっとした顔で代金を請求するおばさん。
数瞬後、我に返ったシゲが代金を払うと、私の腕を掴んで店を飛び出して行った。
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