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出会いは、最悪だった。何せ、私が失恋した時だったから。始まりも突然だった。デートも何もかもすっ飛ばして、『結婚』だったから。
─────
「ただいまぁ」
「おぅ、お帰り」
私より先に帰っていたらしく、台所から声がする。おまけにいい匂いがしている。
「今日は、何?」
リビングから声を掛ける。
「肉じゃがとひじきの煮物。
その前に!
着替えて、手を洗う!」
淡々とした口調で私に指図するこの男、私の夫のシゲだ。
「はぁい」
言われた通りに、慌ててラフな服に着替えて手を洗うと、シゲのそばに行く。彼が手際良く料理を皿に盛り付けていくのをテーブルに運ぶ。
当番制でやっている訳ではない。私がやると、どんな料理になるかわからないからだ。
「美味しい」
そう言って食べる私を、ものすごく嬉しそうな顔で見るシゲ。これで2つくらい私より上だと言うのが信じられない。
そこが好きなんだけどね。
『好き』だと言ってやらない。言うと、調子に乗って抱き付いてくるから。
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