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息さえも凍りそうな夜更けの頃、本塔の中にある図書館に一つだけ、弱々しくもはっきり光る光源があった。
その近くのテーブルには妙齢の女性――インクリス魔法学院、学院長のビネノアが座っていた。
彼女は光源を頼りに本を読み、難しい顔をしながらページをめくる。
「あらあら、こんな夜更けに何してるんですの」
と、そんな声がどこからともなく聞こえ、しかしビネノアは驚く事なく、溜め息を吐いて後ろを振り返る。
「ピリコこそ……私に何か用でもあるのか?」
「別に。ただ一番偉い学院長さんが、皆に隠れるように本を読んで調べ物をしているのが気になっただけですわ」
ピリコと呼ばれた声の主は光源の届く範囲まで歩き、その身体を光に晒す。
そこにいたのは、少女であった。
髪は赤に近い桃色をしていて、その両の端を団子状に縛り、金色の瞳は年不相応の妖艶な輝きが見え隠れしている。
ピリコの言葉にビネノアは一度だけ鼻をならし、それで終わりというようにまた本を読み始めた。
それをぼんやりと見ながら、ピリコは言った。
「シエルにエルラ。そして、咎人。まさか、ロン様が現れるとは意外でしたが――ここまで『伝説』の通りだと先が楽しみだとは思いませんですの?」
ビネノアは、めくる手を止め、深い沈痛の顔をする。
そうしながら少女を見、静かに口を開く。
「ピリコは……どう、思う?」
弱々しくも聞こえるそれを聞き、ピリコは微笑む。
――寒気を感じてしまいそうな笑みは、しかしどこか物哀しいもの。
「……さあ。私には『愛する者を殺してしまう』気持ちなんて、分かるはずがありませんですわ」
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