“島”

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白い砂浜が、海水をうけて眩しく輝く。 青空とこの大海を隔てる水平線は見えない。 タンカーが一隻、蜃気楼を纏い進んでいる。 ナガトはそんな人気のない午後の海岸、色鮮やかなパラソルの下にいた。 このうだるような暑さにはもう慣れていた、島人としてもう十六年が経っているからだ。 ここで何をしているか? 彼女と午後の休講の時間を潰しているのさ。 隣でさっき割った西瓜をほお張る彼女は名を彩夏 という。深い青のビキニは彼女の持ち前の純白の肌によく似合っている。 ナガトはまじまじと彩夏を見た。島人の中でも珍しく焼けていない肌。高校生としては豊かな胸。 きりっとした整った顔立ちは、元モデルの彼女の母の血を受け継いでいるからだろう。美少女というのか知らないが、ナガトと彩夏は幼なじみでありこの島で唯一の高校生でもある。 日本列島の東にあるこの島は、人口数百人の小さな島である。一応東京都ではあるものの、周辺には無人島と海しかない。 小学校、中学校、高校は全て同じ校舎で学ぶ。教員は三人しかいない。 交番は一つ。病院もだ。 まあ、“平和の島”だ。 島には小高い山で二つに分断されている。そして俺達は町の反対側、まだ未開発の森林を抜け、この素晴らしいビーチで遊んでいる。ここは島人でさえ来ない。だから、気兼ねなく過ごせた。 そんな目の前には、一隻の朽ち果てた軍艦がある。 第二次太平洋戦争。その影響はこの島にも及ぼされた。日本軍がここの島の裏側に前線基地を造ったのである。戦中、数多くの軍艦がこの基地、島から人を殺すために出航していた。 俺達が生まれた年に、戦争は終結した。その後日本軍はこの基地を残して撤退。基地は残されたままとなってしまう。あの軍艦達はその名残だ。基地はほとんど自然と同化してしまった。 俺達はしばし休憩した後海に棄てられたその軍艦まで泳いだ。これは小学校の頃から、俺達の“隠れ家”だった。全体的に赤く錆び付いた軍艦はエメラルドブルーの海の海底に乗り上げるようにそこにある。すでに船底には日本軍が爆破したのだろう大きな穴があり、甲板の下は海に住む生物の楽園と化していた。 午後は先生が本土に行ってしまい、自習だったが俺達はこの“秘密のビーチ”に来た。俺達は何時も、昔からこんな風に生きてきた。島も、俺達を受け入れている。 軍艦のにはい上がるとその甲板の熱さにすぐに艦橋に逃げ込む。彩夏も黄色い声を上げて入った。
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