第二章、力の契約

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「おいおい、こりゃ何かの冗談か?」 好戦的な苦笑のままに、額の汗を赤い髪をした青年が拭い取った。 彼の体には、動物のような尻尾がついている。 それがゆらりと揺れて、彼が獣族であることを示していた。 対し、角の生えた狼のような魔物は彼らを取り囲み、口元を唾液でしとどに濡らしている。 その数ざっと、50ほど。 「……あんたとは、もう任務をしたくない」 獣族とは別の、黒い髪をしたもう一人の青年が、さも呼吸さえ面倒臭そうに溜め息を交ぜる。 黒を基調とした生地に、赤で縁取りされた白い十字架。 刺繍の入ったコートで身を包む。 彼が持つ切れ長の目は、深い紫闇の瞳を携え、射抜くように魔物の群れを見据えていた。 「ジル、さっさと片付けよう」 抑揚のない口調。 無気力な声とは印象を異にする整った構えで、黒い青年は剣を抜いていた。 ジルと呼ばれた赤髪も、応えて同じく剣を抜く。 一触即発状態の獣達に向かって指を動かし、挑発の軽口をたたいた。 「同じ獣とは思えねえが……まあいい、掛かってきな犬っころ!」 その声を合図に、双方が弾かれるように動く。 飛び掛ってきた狼の下へとジルは素早く身を低くして滑り込み、曲げた膝を伸ばす勢いと合わせて切り上げた。 その隙を突いて、同時に二匹が牙を向く。 後ろに跳んでジルがかわすと同時、その後方への慣性を利用して振り向きざま、体を反転させて別の二匹を薙ぐ。 軽快で、力の循環を利用した攻撃に理知を思う。 動物的な容姿を一部有しながらも、明らかに単なる動物と異なる知能が暴れていた。 高く飛んで爪を振り下ろしてきた一匹に向かい、先ほど切り殺したモノを、転じて杜撰にも投げつける。 自分の勢いも相まって、向かってきたモノと強く衝突し、ウルフは共に地面へ身を打ち付けた。 ジルが怯んだそれに向かって走りこみ、大きく踏み込み――群れに向かって蹴り飛ばす。 三匹ほどを巻き込んで、ウルフ達は奥にあった岩に衝突して悲鳴を上げた。 手足の痙攣から見るに、再起不能だろう。 とかく、一連の動作で六匹。 だが奇妙なことに、倒したはずの分だけ減ってもいなかった。 それが違和感へと繋がる。 「おいおい、巣でもあんのかここには。こいつら群れ作る種類でもなかっただろ、なぁ? セレ――」 湧いて出るような相手に愚痴りながら、彼が周囲を見渡して相方を探す。 「いない!?」 が、いなかった。
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