第九幕:果たされた約束

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右手に満身の力を込めながら、憎悪の感情を込めた視線で音舞を射抜く。 正直、公園に入っていきなり、鉈を持ったこいつの姿を見たときは、恐怖や驚きよりもまず戸惑いが勝った。 なぜ音舞が?音舞って言えば、あの音舞だぞ? 舌っ足らずで、どこか抜けてて、成績は下から数えた方が早いような奴だ。 そんな奴が、夜の公園で鉈を握りしめている。 異様な光景だとしか言いようがない。 だが、音舞が鉈を振り上げた瞬間、そんなどうでもいい考えは全て吹き飛んだ。 音舞の背後には倒れている美袋。 そして、音舞の目の前には―― 「――ッ!」 瀬良が、いた。 気づいたときには、身体が弾けるように動いていた。 とにかく音舞の動きを止めようと、その鉈を握る手首に腕を伸ばした。 そして―― 「音舞……、てめえが……」 今に至る。 俺が、音舞の手首を握りつぶさんばかりの力で押さえつけ、ゆっくりと口を開く。 「てめえが、今まで全部……やったんだな?」 夏紀を。 夏紀を。 夏紀を、殺したんだな? そして今も、美袋と瀬良の2人を、殺そうと―― 「……そうだよ」 感情のこもらない声で、音舞はそう呟いた。 ブチン――、と、頭の中で何かが切れた音が聞こえた。 「て、めえ……」 声が震える。 うまく言葉を発せない。 ただ、ただ、憎い。 憎い。 こいつが、憎い。 「そんな目で見ないでよ」 鉈は相変わらず、瀬良に振り降ろされる直前で硬直したまま、音舞は続けた。 「志紀くんなら、わかるでしょ?」 「……あん?」 俺なら、わかる、だと? 「どうしようもないんだよ。音舞はね、美しいものを見ると、美しいままとっておきたくなるの。だって、勿体ないんだもの。ほら、この瀬良ちゃんだって、年老いてしまえばいつかその美しさは消えてしまう。音舞はそんなの耐えられない」 口調は全く変えないままに、音舞は一気に捲し立てる。 「ね、志紀くんなら、この気持ちわかるでしょ?」 そして、クルリと俺の方を見た。 「志紀くんも音舞と同じ、異端者なんだから」
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