第九幕:果たされた約束

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同じ、だと。 「……はっ」 俺と、お前が、同じだと? 「俺もお前も……、異端者、だと?」 「そうだよ、志紀くん」 そうか。 もし、それを本気で言っているのなら―― 「自惚れるなよ、『人間』」 とんだ、お笑い草だ。 「な――ッ!」 「お前が、異端者、だって?」 ミシミシと、骨の軋む音が聞こえる。 俺に握られた音舞の手首が、悲鳴をあげている音だ。 「痛……っ!」 「違うな。お前は所詮、ただの人間だ」 貴様ごときが、俺と同じだなんて、笑わせるんじゃない。 「お前は人をモノだとしか思っていない」 「……ッ!そ、そうだよ……!音舞のコレクションとしか考えてない……!」 痛みに顔をしかめながら、途切れ途切れに音舞は言った。 「逆に言えば、『モノとしか思っていないから、お前は殺せる』んだ」 「――ッ!」 そうだ。 ふざけた論理だ、と一般人は一蹴するかもしれない。 しかしそれでも、『理解は出来る理由』がそこにはある。 『人間が理解できる理由』が。 「だがな……」 「ぅっ!?」 思い切り右足を振り上げ、音舞の腹を蹴り飛ばす。 小柄な彼女は、その勢いで地面を二回三回と転がっていく。 同時に、鉈からも手を離してしまっていた。 「あ……く……」 お腹を押さえながら、鉈に手を伸ばす音舞。 俺はその手の甲を、何の躊躇いもなく踏み潰した。 「ぎああああっ!!」 「俺はな、『そいつが生き物だから壊す』んだよ」 右足にグリグリと力を込める。 そのたびに、メキメキと嫌な音がした。 今や音舞に、先程までの狂喜に満ちた笑みはない。 あるのは、痛みと苦しみに歪んだ醜い表情。 俺に許しをこう。俺に恐怖する。俺に屈する。 これだ。これが、俺の衝動の求めるものだ。 「俺もお前らと同じ生物だ。何をされれば痛いか、苦しいか、ようくわかっている。だが、それを与えることに何の躊躇いもない。喜びしかない。これが俺の本性、俺の中の俺」 「あ……あ……」 恐怖に怯えた音舞の瞳をしっかりと見据える。 「なあ、音舞よ」 「ひっ――!」 もう、わかっただろう。お前も。 「こんな俺が、同じ人間に見えるか?」
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