プロローグ:月の堕ちる日

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――その衝動が最初に起こったのは、俺が小学生の頃だった。 皆も幼い頃は、小さな虫を好んで殺したことがあるだろう。 もしかしたらそんなことはなかった、という子もいるかもしれないが、いずれにしろそれは決して珍しいことではない。 例えば、熱湯を蟻の巣に注いだり、とかだ。 ――それを俺は、ペットの猫に実践した。 別に猫が嫌いだった訳じゃない。 むしろ好ましく思っていた。 ――だからこそ、壊したかった。 熱湯の熱さに耐えきれず、のたうちまわる猫。 その苦しみを与えているのが自分だと思うとゾクゾクする。 ああ――、今俺は、こいつを支配しているのだと。 この衝動は、月日がたつほどに強くなっていった。 美しいもの、自分が好きなもの。 それらを見ると、壊したくてたまらなくなる。 異常なまでの殺戮衝動、いや、破壊衝動。 そう、壊れていたのは俺自身。 俺は、この世界では異端者であった。
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