RAINY DAY

3/3

187人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
気に入らない男がいた。 多分、人間性の問題だと思うんだけど、絶対に合わない感じで、お互いにそれは、暗黙の内に了解していて。 その男は仮に坂井としておく。 坂井は僕の先輩に当たる人で、世渡り上手で、社内でも顔が広く、仲間が多かった。 坂井は、偶然君の隣に座った。 君を挟んで、僕は坂井と同じテーブルにつく事になったって訳だ。 なんか嫌だった。 僕はちょっと落ち込んで、君と坂井の話に耳を傾けながらビールを飲み続けた。話題は恋愛についてだった。 「で、彼氏とどう?」 「上手くいってるよ」 「こないだいつ会った?」 「先週かな?」 「何回ヤッたの?」 そこで、僕は君の肩を叩いた。 「え? なしたの?」 君は僕に顔を向ける。 話なんてなかった。 ただ、聞きたくなかっただけだった。 君が恋人と抱き合った回数や、その低俗な話に巻き込まれる君の姿を見たくなかった。 人間なんて、低俗で、汚くて、自己中心的で。 そこには男も女もなくて、十代の頃に想像してた女性像なんて、もうすっかりなくなっていたけど。 でも、ただそんな姿を。 君のそんな姿を見たくなかった。 話題を探す。 探す。 探す。 話題を探しながら、 頭の中は、 君が好きだという思い。 黙っている僕を、 君は怪訝そうに見つめ。 そんな君を、 なんて美しい女だろうと思いながら、見つめた。 ちょっと時間が経って、僕は口を開く。 ねえ、 君は本当に、 僕の気持ちを知らなかった? 後から考えると、 その時僕が言った台詞は、 まるで下手くそな告白だったよ。 的はずれな 愛の言葉だったよ。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加