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「あ、やっぱり生きてますよ!」
先に到着していた童顔の男の上げた嬉しそうな声に、役者風の男の歩調も自然と速くなり、最終的には駆け足になる。
「……女、か?」
が、いざ其の人間の態(なり)を見て、男は訝しげに首を傾げた。
其れはまだ若く、死装束のような白い着物を纏った女だった。手負いらしく、彼女の周囲の雪は赤く染まっている。
細く口から漏れ出る息は荒く、顔色は青白いどころか紫じみていた。
「……刀を持ってますね」
しかも男のように刀を帯びており、どう見ても唯事ではない。
「……訳有りか?」
「でしょうね。
とは言っても、息がある女性を放っておけないでしょう。……どうします?」
童顔の男は、役者風の男を期待に満ちた瞳で顧みる。
「お前なぁ……犬や猫を拾うのとは訳が違ぇんだぞ?」
「其のくらい、解ってますよ。
でも、帯刀しているかは別として、手負いの女性なんて見殺しに出来るんですか?」
そう言って微笑んだ童顔男は、矢張り此の状況を楽しんでいるとしか思えなかった。
「そりゃあ……仕方無ぇな」
役者風の男も、未だ何か言いた気な表情ではあったが、少し顎に手を当てて考えた後、彼女をそっと抱き上げる。
態度とは裏腹に、まるで壊れ物を扱うように丁寧に。
「じゃあ、私は傘を差しますから♪」
童顔の男は、其れを見て満足したのか、二人分の傘を差す役を買って出た。
「ああ……悪ぃな」
そして男達は、早足ではあるが慎重に、一歩一歩と踏みしめて歩き出す。が、故に彼らは見落としていた。
雪に深く染みていた筈の紅が、ゆっくりと一つの"塊"のように蠢き始めていた事に。
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