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  「軍の幹部を呼べ」  男はそう言って、勝ち誇ったように肩を揺らし下品に笑った。 「……幹部なら、既に目の前にいるのだが?」 「お前のようなひ弱そうな女が幹部?  時間稼ぎなら、もっとマシな嘘を吐くんだな!」  男は一瞬虚を突かれた様子であったが、口元を更に下品に歪める。  だが、娘は全く動じない。 「何と言おうが、私が我が国の軍を率いている事実は変わらん。卿が名乗るならば私も名乗ろう。  望み通り幹部が要求を聞くと言うのに、みすみす好機を逃す気か?」 「ふはははっ! 面白い女だ。お前に免じて、其の冗談に乗ってやるよ」 ──未だ誤解は解けていないようであったが、既に彼女は誤解を解く気自体を削がれており、否定はしない。 「して、要求は?」 「"賊軍"の降伏だ!」  そして勝ち誇ったように鼻を鳴らす男に対し、少女は唇の端を吊り上げる。 「降伏……我等には馴染みのない言葉だ。  そも、戊辰戦争など昔の話を蒸し返して……卿らの大将は、余程に愚鈍な死にたがりと見える」 「こ、降伏する気はないのか!?」 「何か思い違いをしているらしいが……"官軍"とは、錦の御旗を賜った軍の事。我等こそが帝の御意向を賜りし軍、即ち官軍である事は明白だ」 「ならば──死ねぇぇっ!」  一瞬怯んだかに見えた男は、次の瞬間には人質を突き飛ばし、ナイフをかざして女の元へ走って来た。  ──だが、其の刄が彼女に届くより先に、二発の銃声が響いた。  ナイフが宙を舞い、男は崩れ落ちる。 「ぐ……ああぁっ!?」  見る見る広がる血溜まりに蹲(うずくま)り、銃弾が貫通した脚を押さえた男。 「軍の幹部が丸腰な訳がなかろう? そもそも、卿とは踏んできた場数が違う」  更に冷ややかな言葉を浴びせながら、少女は銃口を男に向ける。 「くっそ……!」  それでも男は頭を上げ、再び立ち上がるかに見えたのだが── 「小娘が、どうして容易く国を動かせる!?  この理不尽な戦……国に最早希望はない!」  直後、男は先程のナイフで自ら腹を抉った。 「餓鬼が……」  着物の裾と生足を濡らす飛沫。至って平然とそれを拭うと、彼女は軽く顔を顰める。 「プラチナ! ご、ご無事ですか……?」  そして、気不味そうに駆け寄って来た"元"人質の女の手を払い除けて歩き出した。 「……理不尽な戦、か」    
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