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「何だ、君が殺したのかと思った」
「人聞きの悪い事を言うな。私は脚を一発撃っただけだ」
物々しい会話の内容に怯えたのか、ベッドの上の女は身を強張らせるが、その事に構う者はいない。
「其れで、君はプラチナに護ってもらえた?」
そんな場の雰囲気に拘らず、男はやたら爽やかな笑顔を浮かべて見せる。
「は、はい……。お陰様で怪我も無く……」
答える際、葉月と呼ばれる女は慌てて右手を後ろに隠したが、その指から滴れる赤を、プラチナともあろう娘が見逃す筈も無かった。
「……少し、掌を切ったらしいな。尻餅も突いていた。医者に診せるのが賢明だろう」
プラチナは、葉月ではなく男の方を向いてそう告げる。
「いえ、そのような大袈裟な事では――」
「大事な事だよ。早速、医者を呼ばせるからね」
葉月は首を横にぐるぐると振ったが、初めて見る男の真剣な表情は、彼女を簡単に頷かせた。
「ああ……お前、まだいたのか。
早く医者を呼んでくれないか? 内線の方法は判るだろう?」
ベッドの上ですっかり小さくなっていた女に視線を送ると、プラチナは顎で電話を指す。
「ど、どうして私が他の女の為にそんな事……!?」
「案ずる事は無い。お前は、明日にはこの男の頭から消えて無くなる程度の存在だ。
今視界から消えても、何ら支障は無い」
プラチナは至って真面目な表情で言い切ったが、其れを否定しようとする者は誰もいなかった。
強いて言えば、葉月がおろおろと三人の顔を見比べている程度か。
「こ……こっちから願い下げよ!」
深く自尊心が傷付いたのか、女は男の頬を平手打ちすると、真っ赤な顔のまま部屋を出ていった。
「だから元貴族の女は……」
殴られた男はと言うと、暫くぶつぶつと呟いていたが、やがて仕方無く自ら電話に手を掛けた。
「少しは失敗して学習しろ……。
あまり兄弟を増やされても、困る人間はいる」
その様子を眺め、プラチナがまた小さく毒を吐いたのは言うまでも無いが、そんな雰囲気も束の間――。
「…………痛……っ」
葉月が突然、腹部を押さえて畳に倒れ込んだ瞬間から、あらゆる歯車が回り出した。
――そう……。
これが、大小の差はあれど各々の人生を変える出来事だと、誰が読み切れていただろうか……?
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