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「お前は毎度毎度、返り血が無ぇも同然で良いよな……。
こんだけ派手にやったら、明日には町方に届けねぇと……」
役者風の男の方は、怠そうに息を吐いた。
「其のまま鞘に戻したら駄目ですよ」
「ああ」
童顔の男に言われた通り、彼は刀を懐紙で拭う。
「やべ……刃が毀(こぼ)れた」
「え? 借り物なんだから不味いですよ……」
「ああ……。こちとら鼻紙一枚の工面にも困ってるってのによぉ……」
そろそろと刀を収めると、男は舌打ちした。
「仕方無いですよ。
そうだなぁ……。少しくらいなら、じっくり見ないと判らないでしょうし、返してしまえば平気じゃないですか?」
「おいおい……。
其れじゃあ、"奴"と変わんねぇじゃねぇか」
役者風の男は"奴"という某(なにがし)の事を口に出す際、わざとらしく顔を歪めて見せる。
「私は嫌いじゃないですけど……あの人の素行のお陰で、我々が煙たがられているのも事実ですよね」
「さっきの輩だって、奴に恨みが有ったかもしれねぇしな」
「其れは深読みし過ぎですよぉ……」
童顔男は、人好きする常時の笑顔を作ったが、目元は笑っていなかった。
だが――半ば癖のような微妙な笑顔も、次の一言に因って、一時引っ込む事になる。
「おい……。あれ、何だと思う……?」
「ああ……たまに居るじゃないですか。寒くて凍死したり、飢え死にする人」
役者風の男の指先には、雪の上に横たわる影。
男はかなり遠目ではあるが、進行方向に倒れているのは、紛れも無く"人"だと解っていながらも尋ねたのだ。
其れに対して童顔男は、眉間に皺を寄せはしたが、何でもない事のようにさらりと答える。
「……だよな。町方に届ける事が増えちまった……」
「あそこを通らない訳にはいきませんしね……。
私、先に行って様子を見てきますよ!」
そう言うが早いか、童顔男は早足に其処に近寄っていった。
嫌そうな顔をしていた割には興味津々で飛んでいく彼は、まるで子供だ。
"何時もの事"とは思いながら、男は深く溜め息を漏らす。
「……ったく、お前なぁ……餓鬼じゃあるめぇし……」
心配性なのか、男はぶつぶつ呟きながらも、結局彼の後を早足で追った。
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