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『ある朝、目が覚めると、ザムザは一匹の大きな虫になっていた』……か。
冒頭にだけ目を通すと、余韻を楽しむ様に目を閉じ、上を向いた。私がこの本を読むのは、実にこれで三度目になる。
突拍子もない発想。
偶然と云う一言では片付けられない不条理な現実。
そんな不運に立ち向かう主人公になった気持ちで物語を読む。これが読書の醍醐味ってもんだ。
最初にこれを読んだのは高校生の時。学校の授業の一環としてイヤイヤ読まされた。今でもあの時の事をよく夢で見る。
二度目にこの作品を読んだのは大学生の時。当時付き合っていた彼女との別れで傷付いた心を埋めるために何か……と思い、たまたま本屋で手に取ったのがこの本だった。
最初に読んだ……いや、読まされた時に気に入ったからでもなければ、特に読みやすかったわけでもなく、不思議とその本に呼び止められた感じがしたのだ。
その独特な世界観が頭から離れなかったのも確かにある。だがそれよりもまるで懐かしい旧友に街でばったりと出くわしたかのような錯覚さえ覚えたのだ。
それ程までにその本の表紙は私の目に鮮やかに飛び込んで来た。私の中であの世界観がパッと広がった。
私はその本を手に取ると、いそいそと買って帰り、その日の晩から一気に読み切ってしまった。
このままでは本当に私まで巨大な虫になってしまうのではないかと思うくらい、のめり込んでしまった。
その時の感覚を今でも忘れはしない。
異質な空間へと引きずり込まれるがままに一睡もさせてもらえず、読み終わってふと現実の世界に引き戻された瞬間、私は倒れる様に夢の世界へと旅立った。どこまでが夢だったのかさえ定かではない。
本を読んでこんな感覚に陥ったのは、生まれて始めての体験だった。
強いフラッシュバックと、鳴り止まず飛び出してしまうんじゃないかと云うくらいの強い鼓動で目を覚ました私は、恐怖感に駆られてその本を封印する様に書棚の奥へと押し込んだ。
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