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実はこの時、この本を二度と開くまいと思って極力目に付かない場所に封印したはずだった。
その本が昨日、掃除している最中にひょっこり飛び出してきたのだ。
少々背開きに茶色の染みが浮き出て来てはいるものの、意外なほど綺麗なその本は、書棚にぶつかった私の尻に弾き出さる様に、足元に転がり出てきたのだ。
表紙と目が合ってしまった。
私は蛇に睨まれた蛙の様に、その視線を避ける事が出来なかった。
こうして、この本が今ここにあるのだが、誘いに負けて開いた最初の1ページ目の冒頭を読んだだけで、既に心地よい寒気が背筋を走っている。このゾワゾワ感がタマラナイ。
もう少しこのままこの余韻に浸っていたい所だが……
さてどうしたものか。
二度目に読んだ時とはまるで環境が違う。
今現在、日曜の夕方五時で、遅くともあと一時間もすれば女房と子供が帰って来る。
私は一旦閉じた本を、ほんの少しだけ開いて薄目で覗き込む。
この本が呼んでいる……
私は葛藤に負け、再び本を大きく開いた。
そこには私の待っていた世界があった。
突拍子もない発想。
偶然では片付けられない現実。
そんな不運な主人公の気持ちになって読む。
ああ……
このままこの世界に入っていけたらどれだけ素敵な事か。
私は再び目を閉じた。
幸子と慶介が買い物から戻って来て部屋の中で見た物は、その短くてたくさんの脚に本を抱え、眠った様に動かない一匹の巨大な虫だった。
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