動く刻

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招致は突然だった。ラクエルが唯一頭を垂れる相手が、重々しく口を開く。 「生界に下れ」 「人間の国に、ですか」 この世界は、四つの世から成り立つ。人間の生界、死者の黄泉、悪魔と呼ばれる審判者の魔界、神と呼ばれる創造者の神界。 神界に住む者が仕える相手は、四界を生み出した創造神。 「人間の時間にして半年。生界の様相を報告せよ」 「わかりました」 故に、ラクエルら神々が仕えるのも彼だけなのだ。 「しかし、何故です?わざわざ私を遣わさなくとも、生界の様子など簡単にご覧になれるはず」 「…お前はまだ若い。創世の戦いより後に生まれ、故にまだ世というものを知らぬ」 「創世の…、確かに、私は神の争いというものを見てはいません。経験ということですか」 「そうだ。行け」 ラクエルは立ち上がる。白みを帯びた青い髪を軽く払い、すみれ色の瞳で軽く会釈をし。 何の感慨も持たず、退室した。
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