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――だーかーらぁ!
叫ぼうとした時、そのガキはうるうる顔で続ける。そして胸の真っ赤なペンダントを掴んで、
「ママ、このペンダント覚えてないの?……『これをもういないパパの血だと思って、大事にするのよ』って」
ンなグロテスクな台詞吐く母親がいるんかいっ!
――叫ぼうとして、やめる。
他客の視線が痛い。
完全にあたしがこのコの母親だと思って、『きっと育児放棄したんだわ……』とか言いたげな視線である。
深い、深ーい溜め息をついて、
「……ついといで」
あたしはそのコの手を引いた。
「ママ☆」
やたらと輝かしい声が聞こえたが、そんなはどーでもいい。
あたしゃただ、こういう切なげ……しかもあたしが加害者かいっ! て空気が大嫌いなのだ。
しかも、これでもガキや老人には親切にするくらいの人道は持ち合わせているつもり。
だからこのコはぶちのめせない。
あぁパンケーキが勿体無いけど。
あたしはそのまま、光沢のある白い扉を押した。
砂塵が吹き込み、咄嗟に自慢のテンガロンハットを抑えようとして――舌を打つ。
ドア押す手と、女のコを掴む手。
ここでこのコを振り払えば、非難も最高潮になってしまう。
堪忍して、あたしは外へ出た。
――あぁ目が痛い。
だけどちらりと振り返り、思わずニヤけてしまう。
散々に散らばり落ちた『使用済みの食器』たち。
良かった。財布の中がヤバかったのだ。
これで食費が浮いたわ。
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