★【第102話】宿を飛び立つ渡り鳥

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 ――闇の中に、一筋の光が見える。 街から離れた場所にある『そこ』は海岸沿い、黒の邸宅である『漆黒の闇蛍』のすぐ側… 夜の海は暗く、冷たい風と共に肌寒い潮風を叫ばせる。 『旅立ちの時』をただひたすらに待ち続ける一隻の艦(ふね)が夜の波に揺られていた。 その艦の甲板の先に潮風に当たりながらただじっとある一方を見つめている男の姿があった。 闇に儚げに輝く、たった一筋の光だけがその男を照らしている。 緑色の短髪にきりりと引かれた意思の強さを表す太い眉、その瞳は燃えるような赤を宿す。 夜風の寒さから身を守るために身につけられた紺色のマントが風に靡く。 ただその男の意識はここではなく、別の場所に向いていた。 「――時間だ」 車輪の付いた椅子に座る中年の男がその者の後ろから声を掛けた。 癖が強いウェーブがかったワイン色の長い髪を後ろで無造作にまとめ、眼光鋭い琥珀色の瞳と不精髭が妙な威圧感、存在感を醸し出す…歳にして30後半だろうその男は、負傷した胸元の包帯を隠すように羽織ったグレイのガウンに身を包む。 命の代わりに失った動かなくなったその両の足とそして、掛け替えのない存在……その影が、その男に疲弊した印象を植え付けているのかもしれない、いつもと同じはずのその表情に陰りがあるように見えた。
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