★【第102話】宿を飛び立つ渡り鳥

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「まだだ…!まだゼロとコビが戻ってきていねェだろ!!」 甲板に立つ男……アベル=ハリアーは今しがたタイムリミットの宣告をした車椅子の男に向かって言い放った。 だが、対峙するロベルト=ハイドは首を縦には振らなかった。 「もうじき夜が明ける。 停泊しているこの艦(ふね)をこの国の者の目に触れさせるわけにはいかん」 ロベルトが見せるその表情は言葉通りに固く、冷たいものであり、そして、アベルは彼の言う通り長居できない事実も解っていた。 その艦は隣国であり、現在、冷戦関係にあるオーボンヌのものであり、国内での立場・居場所が危うくなったアベル達の亡命の鍵を握る使者・レイミアが乗ってきたものだった。 もし、ただいたずらに停泊を長引かせることで国内の者にその艦の存在やあまつさえアベル達との関係が知られれば、最悪の場合、それだけで開戦の引き金になってしまうことも今の情勢であれば十分に有り得る……それを懸念しているのだ。
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